中国プログラミング教育最前線(4)山東交通学院 情報科学・電気電子工学学院

 中国・山東省済南市の山東交通学院は、北京大学や清華大学などの一流大学群に次ぐ位置づけの国立総合大学だ。学生は全体でおよそ2万6000人で、1400人の教授が教えている。学部は自動車工学や鉄道交通、航空など交通に関するものを筆頭に、工学、理学、経営学など15に及ぶ。情報系の学部は情報科学・電気電子工学学院だ。ここで教鞭を執る張広淵副院長に情報系教育の現状について聞いた。

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山東交通学院情報科学・電気電子工学学院の張広淵副院長

●企業のニーズに合致して第一線で活躍する人材を育成

 山東交通学院のなかでの情報科学・電気電子工学学院の位置づけは高い。大学独自の学部評価制度で算出すると、毎年変動はあるが、15学部のうち常に上位5位に入る。情報科学・電気電子工学学院は特に交通との関連性は薄いものの、あらゆるシステム開発の基礎を学ぶことができる学部として重要視されている。

 2000人の学生と80人の教授を擁する情報科学・電気電子工学学院は、電気工学・オートメーション学科、ソフトウェア開発のコンピュータ科学技術学科、情報管理・情報システム学科、電子情報学科という四つの学科に分かれている。電子情報学科はさらにIoT系のインターネットものづくり系と組込み系に分かれる。

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山東交通学院 情報科学・電気電子工学学院

 情報科学・電気電子工学学院のモットーは、国際化を視野に入れながら、応用力があって企業のニーズに合った第一線で活躍する人材の育成。特に企業ニーズの把握には力を入れ、提携企業へのアンケートや企業から講師を招いて開く特別講座などを通じて情報を収集。さらに夏休みなどを利用して、就職者が多い企業を先生や学生が訪れて調査したり、卒業生に対する追跡調査を行ったりして、多角的に企業ニーズを探っている。張副院長によれば、「2015年頃はHTMLや携帯アプリのニーズが高かったが、一昨年からはセキュリティやビッグデータ分野への関心が高まっている」という。一方で、「対日アウトソーシングに対する需要は、この2~3年でかなり落ちてきた」と語る。

●需要が高いSAP ERP、学生は引っ張りだこ

 特に需要が高いのは、主に情報管理・情報システム学科で扱うSAP ERPで、企業から大いに歓迎されている。在学中から入社のオファーがあり、1年目の年収が日本円でおよそ400万円に上ることもある。米調査会社のマッキンゼーによると、2015年の卒業生のうち、最も給与が高かったのは情報管理・情報システム学科の卒業生だったという。

 一方で、学生に人気があるのはセキュリティ分野。「情報が盗まれるという仕組みに興味がある学生が多いようで、進んで勉強する者が多い。次に人気があるのはビッグデータで、これは就職に有利という理由からだ。もちろん、コンピュータ原理やC/JAVAなどの言語、データベース原理など、基礎の基礎もしっかりと教えたい」と、張副院長は語る。組込み系学科では、学内で利用する指紋認証システムなどを開発しており、勉強の成果がかたちになるので、こちらも人気が高い。ハードとソフトの両方に強ければ就職にも有利になることから、人気がある。

学内で実際に使っている指紋認証の施錠システムは学生と共同で開発.jpg
学内で実際に使っている指紋認証の施錠システムは学生と共同で開発

 張副院長の研究分野は画像処理。「道を歩いている人たちを識別する技術や、医療機関向け画像処理などを研究している。さらに、顔の表情や運転の挙動などからドライバーの疲労度合いを自動的に判断するシステムなども研究している」(張副院長)。研究室には博士が4人、院生が3人、学部生が2~3人在籍し、一緒に日々研究を続けている。「例えば自動車関連では、現在は運転補助システムにとどまっているが、将来は自動運転やロボット分野に幅を広げたい」(張副院長)。

●就職した卒業生の9割前後がコンピュータ関連の仕事に就く

 学生の就職先は6~7割が国内の民間企業で、外資系が1~2割、国営企業や公務員が2割程度という比率だ。情報科学・電気電子工学学院の卒業生の約9割は何らかのコンピュータ系の仕事に就き、学んだ専門知識・技能を生かすことができる環境が整っている。就職先の地域は2割が済南市で、北京や上海、青島市でそれぞれ1割弱。残りもほとんどは山東省の他地域の企業に就職している。

 就職先は、有名なところではアクセンチュアやデロイトなどの外資系コンサルタントのほか、IBMやHP、ファーウェイなどのメーカーなど。日本のNECに就職して、東京に赴任している卒業生もいる。また、起業する学生も多く、教育関連機器を開発する会社で株式上場を果たしたOBがいるという。

●コンテスト参加は学業と不可分の位置づけ

 学生のモチベーションを高めるものとして、全国大学生電子設計大会や挑戦杯など、コンテストへの出場がある。張副院長は、「山東省大学生ソフトウェア設計コンテストには2005年から参加している。なかなかいい成績が取れなかったが、今年は、2等賞に3チームが入った」と、うれしそうに成果を語った。また、国際コンテストのACM-ICPCにも一昨年から参加している。学生たちにとってコンテストの果たす役割は大きく、カリキュラムによってはコンテストの準備に時間を割くものもある。また、参加することでの単位付与もあって、コンテストは学業と不可分の位置づけだ。

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学生がドローンの試作に取り組んでいる実習室

 国際交流という点では、アフリカ各国から30人を超える学生が留学。毎年、7~8名のスウェーデンからの交換留学生を受け入れている。このほかタイ、ベトナム、マレーシアとの交流を深めようと計画中だという。日本の帝京大学や大阪産業大学との交流も深い。

 若年者へのプログラミング教育について、張副院長は「まずは興味をもってもらうこと。地域の小・中学生を研究室に招いて、半日程度の見学会などを開催している。子どもたちはびっくりしながらも、とても興味をもつ。そうしたきっかけづくりが大切だ」と話してくれた。
(ITジュニア育成交流協会・道越一郎)