中国プログラミング教育最前線(7)山東商業職業技術学院

 山東商業職業技術学院は、山東大学のような「本科」に次ぐ位置づけの大学専科高等教育機関だ。学術研究などを幅広く行う本科に対し、専科はより実践的な教育を通じて即戦力を養成する機能をもつ。ここでコンピュータ教育を行っている情報・芸術学院の朱旭剛 副院長に、コンピュータ教育の現状を聞いた。

本科に負けない実践力を養成する情報・芸術学院

 山東商業職業技術学院は、およそ1万5000人の学生を擁し、山東省の専科大学のなかではナンバーワンの実績を誇る。中国政府が定めるモデル校100校のうちの一つで、他の大学に先だってさまざまな実験的な教育などを行っている。また、山東省で16件が認定されている中国優秀校のうちの一つでもある。

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済南市中心部からやや東の旅遊路にある山東商業職業技術学院

 会計・金融や商業関連の学院に所属する学生が最も多い。そのなかで情報系の教育を担うのが、情報・芸術学院だ。学生は約2500人で、教員は約80人。山東省にある情報系の専科大学ではトップクラスに位置づけられる。昨年開かれた中国職業技能大会では、電子情報関連の情報セキュリティ、モバイルソフト開発、ソフトウェア試験の4部門で金メダルを獲得し、一昨年の2個から倍増となった。山谷はあるものの、学生の質は年々向上している。

IoTなどのハードが絡む学院とソフトと芸術系の学院に分割

 以前は電子情報学院としてハードウェア、ソフトウェアの両方を教えていたが、昨年末に情報系の学院を再編成。情報・芸術学院がソフトウェア系として再出発した。応用電子やIoTといったハードウェアに絡む部分は、スマート製造・サービス学院が担当することになった。ソフトウェア系の情報・芸術学院には、ソフトウエアテクノロジ、クラウドコンピューティング、ビッグデータ応用技術、ネットワーク技術、コンピュータ応用技術などのほか、芸術系のデジタルメディア関連、建築専攻がある。

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山東商業職業技術学院 情報・芸術学院の朱旭剛副院長

 情報系にこうしたメディア関連や建築専攻が含まれることについて、朱副院長は「本科と違って技術や技能の習得に力を入れており、理論だけではなく実践に即した教育を行っている。例えば、汎用のソフトウェアに関して本科の大学と競争すると比べものにならないが、ソフトウェアと建築と結びつくような実践的な課題に関して強みが出てくる」と話す。

 現在、特に力を入れているのは、開発系ではウェブとモバイルのアプリケーション。言語ではJAVA、HTML5などだ。モバイル系OSでは、以前はiOSに力を入れていたが、今はAndroidに軸足が移ってきたという。どちらも必要だが、限られた時間で取り組むには、今後ユーザーの拡大が見込まれるAndroidを、と考えているからだ。また、クラウドコンピューティングにも力を入れている。前述のモデル校として国から5000万元、山東省から200万元と計700万元の資金を得て、全国の職業大学で活用できるように学生向けの教育用のコンテンツ制作も行っている。

 全部で3年間の課程のうち、1年生では基礎知識を学び。2年生からそれぞれの専攻に進んでいく。最終年度の3年生になると、インターンとして企業で実践的な業務を身につける。そして、多くの学生はそのままインターン先の企業に就職するという。

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情報・芸術学院は情報系と芸術系の連携が強み

 ウェブアプリケーションの開発が専門の朱副院長は、実践的な技術を身につけさせる目的もあって、学生と一緒にシステム開発を行っている。最近では、ウイチャットのアプリケーションとして、大学で利用する実習管理システムを開発した。これは先生と学生のコミュニケーションを円滑にするアプリで、どんな実習をどこでやっているかをリアルタイムで把握でき、先生から学生への指示もアプリを通じて行うことができる。

先生はコーチのようなもの。実際の開発で実践力を身につける

 朱副院長は、「学生と一緒にアプリケーション開発をしながら、不具合を一つひとつ修正していく経験を通じて、企業での業務に即した力が身についていく。先生はコーチのような存在だ」と話す。卒業後の進路については、「開発だけではなく、アフターサービスやメンテナンス、販売なども含む広い意味でのソフト関連の仕事に就いている卒業生が6~7割程度」だという。なかには会社を設立して、朱副主任の開発したソフトのメンテナンスを請け負っている卒業生もいるという。

 数年前までは、NECソフトウェアの依頼を受けて、クラス全員でソフトウェア開発をしていたという。日本語の講座もあった。しかし、この2~3年は、こうした対日アウトソーシング業務を意識したカリキュラムは消えてしまった。朱副院長は「くわしい理由はよくわからないが、今後もリクエストがあれば、要望に添った人を育成する」と話した。

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朱副院長(左)と筆者

 日本で2020年に始まる小学生向けのプログラミング教育について意見を聞くと、朱副院長は「子どもたちへのプログラミング教育については、アメリカが進んでいる。MIT(マサチューセッツ工科大学)などでもさまざまな試みが行われているので、それが参考になる。やはり、眼で見て、わかりやすいことが大事だ。例えば、ロボットを使って子どもの好奇心を高めながら、自分でやりたいことを実現できる環境を用意するのがいいと思う」と話してくれた。

(BCN・道越一郎)