多くの才能を輩出する山東省大学生ソフトウェア設計コンテスト、成長と成果の軌跡

 11月25日、中国・山東省済南市の山東交通学院で第15回山東省大学生ソフトウェア設計コンテストの表彰式が開催された。2003年に山東大学ソフトウェア学院の石冰先生の呼びかけで始まったコンテストは、65校/1040チームが参加する大会に成長し、中国でも有数のプログラミングの祭典になった。そこで、コンテストの運営を担当する済南計算機学会の尚玉新副秘書長に、コンテストの足跡や成果などについて聞いた。

■15回目を数え、6000人規模のコンテストに成長

 山東省教育庁をはじめとする7団体が主催し、済南計算機学会など3団体が運営する山東省大学生ソフトウェア設計コンテスト。石先生とともにコンテストを始めた徐萌先生が掲げた「すべては学生たちのため」という理念の下、学生を主人公としながら彼らの成長を促す機会として15年にわたって開催し続けてきた。2009年からは、大小50以上のコンテスト・大会からなる山東省大学科技祭の中核コンテストになっている。

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「社会に貢献したいという情熱がコンテストの継続を支えている」と話す済南計算機学会の尚玉新副秘書長

 尚副秘書長がコンテストにかかわりはじめたのは、大学卒業後の2009年から。中国には学生向けのプログラミングコンテストが多数あるが、長期にわたって継続するものはあまり多くない。そのなかで、参加者が6000人規模という大きなコンテストを継続して開催してきた。尚副秘書長は、その理由を「石先生を筆頭に、関係者が『お金を目的にせず、社会に貢献したい』という情熱をもっていることが、長く続いている理由だと思う」と語る。学生と指導にあたる先生の関係を「火鍋」にたとえ、「一人ひとりが別々に食べるレストランのコース料理と違って、火鍋はみんなで好きなものを入れて、プロセスを楽しみながらいっしょに食べるという距離の近さがある。そのなかから新たな才能を発掘してきた」。

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15回目のグランプリに輝いたのは、山東省青島市・中国石油大学(華東)の学生5人組が開発した「VRを使った運転免許試験模擬システム」

■多くのOBが活躍、表彰式後に採用が即決する場面も

 コンテストの入賞者が社会に出て活躍している例は、枚挙にいとまがない。毎年、表彰式が終わるとすぐに企業の社長が学生を囲み、奪い合いになるほど注目されている。例えば、不動産業向けシステムを開発して優勝したチームが、表彰式の直後にシステム導入を約束されただけでなく、その場で5人のチーム全員がその企業に採用されたこともあった。また、コンテストで入賞したHTML5ベースのテレビ会議システムは、直後にある企業が買い取った。コンテストをきっかけにした研究室や学生へのオファーは絶えないという。

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中国石油大学勝利学院の学生が開発した「高齢者アシスタントシステム」。スマートフォンを使った心拍数計測で審査員にアピールした

 15回目の今年は、17の課題が出された。モバイルゲームやスマートフォンの実用アプリ、HTML5によるプログラミングから、ロボットやビッグデータまで、ジャンルは多岐にわたる。「最近の人気ジャンルはHTML5やビッグデータで、AIはまだこれからの段階」(尚副秘書長)だが、今後はAIにも取り組むことになるだろう。コンテストで上位10位に入った作品は、毎年『ソフトウェアの設計と実装』という本にまとめられ、関係者に配布される。

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2016年版『ソフトウェアの設計と実装』。ここに作品が掲載されることが目標の一つになる

■アイデア重視だが完成度も求められるレベルの高い大会

 大会は毎年3月に始動し、4月にオンラインでの受付が始まる。この段階では、課題を選んで手を挙げるだけ。10月1日の締め切りまでに、プログラムの概要書とプログラム本体、プログラムの動作を記録したビデオをセットで提出する。作品は、中国全土の大学教授や会社の代表など、およそ100名からなる審査員が専門分野ごとに分担して審査。2次審査を通過すると、10分のプレゼンテーションができる最終審査を経て、その年の順位が決まる。1000件以上のエントリがあるものの、プログラムを完成させて提出に至るのは700件程度だ。

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今年の表彰式に来賓として招かれたBCNの奥田喜久男会長兼社長が入賞者に賞状を授与

 「今後は、最後までプログラムを完成させる率を上げるとともに、プログラム自体の質の向上を目指したい」と、尚副秘書長。「最も重視するのはアイデア」としながらも、単に企画だけではだめ。実際に動かなければならないのは当然だが、「プログラムの完成度が高くなければならない」と話し、最後までやりきることが求められるコンテストであることを強調した。「完成した作品をブラッシュアップする組織を立ち上げ、生活に役立ちながら商業化できるレベルの作品を増やしていきたい」と抱負を語った。
(取材・文・写真:ITジュニア育成交流協会 道越一郎)