山口県宇部市で中国地区初のU-16プロコン
競技・作品ともハイレベルの戦いに

 山口県宇部市で、また一つ、子どもたちの未来をつくる活動が始まった。中国地区初のU-16プログラミングコンテストとなる「U-16プログラミングコンテスト山口大会 2021」(U-16プロコン山口大会)である。11月3日、会場の宇部工業高等専門学校(宇部高専)には、県内の小・中学生、高校生と指導者、参加者の家族が集い、競技部門と作品部門が並行して開催された。

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U-16プロコン山口大会入賞者の面々。前列中央でトロフィーを手にする左側が作品部門最優秀賞の中野晃聖さん、右側が競技部門優勝の坂本空紀さん。坂本さんの後ろは古田真一大会実行委員長

競技部門は岩国高校1年生の坂本さんが制する

 U-16プロコン山口大会は、今年が第1回。対戦型ゲーミングプラットフォーム「CHaser(Python)」で勝敗を競う競技部門と、CGやゲーム、プログラムなど、広くデジタル作品を募る作品部門を設けた。

 大会運営の中心は、宇部高専の教授陣とコンピュータ部の学生たちだ。プログラミングを初めて学ぶ子どもたちに向けて、9月23日と10月2日の2回にわたって開催した事前講習会では、学生たちが講師を務めた。参加した小・中学生は計16人で、CHaser(Python)のプログラミング、Scratchによるゲーム作品やCLIP STUDIOによるイラスト作品のつくり方を学び、大会参加への準備を進めた。

 3日の本大会に参加したのは、競技部門が11人、作品部門が10人。市内や近郊の小・中学校からだけでなく、クルマでおよそ2時間弱の岩国市から県立岩国高校の科学部コンピュータ班の面々が競技部門に参加し、大活躍をみせた。

 競技部門はトーナメントによる勝ち上がりで優勝を目指す。負けても敗者復活戦に回り、3位に入る可能性が残る。競技が始まって驚いたのは、どの参加者のプログラムもこれが第1回とは思えないほどの完成度だったこと。きちんと最後のターンまでアイテムを採り続けて破綻が少なく、プット勝ちも随所にあって、見ているだけでCHaserの楽しさが伝わってきた。

 決勝戦に残ったのは、坂本空紀さん(岩国高校1年生)と山本光将さん(宇部高専1年生)。第1ゲームは坂本さんが中盤にアイテム数でリードを許すものの、終盤に追いついてドロー。第2ゲームは山本さんが自分の駒をブロックで囲んでしまった後、よもやの自滅で、坂本さんが激戦を制した。坂本さんは、「(それまでの自分の勝ち方を見て)もしかしたら勝てるかなとは思っていたが、第1ゲームのドローでどきどきした。勝ててよかった」とコメントしてくれた。3位には、いずれも岩国高校の松本悠斗さん(2年)と小澤光太郎さん(1年)が入った。

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坂本空紀さんは安定した戦いぶりで見事に栄冠を勝ち取った

完成度の高さとプレゼン力が光った作品部門

 作品部門は、制作者が自分の作品を紹介するプレゼンテーション、審査員が評価する審査、参加者が他の作品を体験・操作して制作者に質問できるデモンストレーションの3部構成。出品された10作品は、ゲームが6作品、ボーカロイドなどを使った動画系が3作品、そしてOSが1作品だった。

 プレゼンテーションは、会場参加だけでなく、オンラインでもできるように配慮されていた。競技部門と違って参加者は小・中学生が多いが、驚いたのはその作品の完成度とプレゼン力の高さ。よどみなく、浸透効果を見計らったタイミングで自身の作品を説明していく。大都市で行われる全国レベルの大会では見慣れた光景だが、地方の第1回大会でこうした作品やプレゼンに出会えるとは思っていなかった。

 審査の結果、最優秀賞には、CGソフトを使って3Dモデルを曲に合わせて踊らせた「鏡音レンで踊【フルCGアニメーション】」を制作した中野晃聖さん(宇部高専1年)が輝いた。アイデア賞は、動作が軽い32ビットOS「W.B.OS_32」の山本健一朗さん(深川中学校3年)、宇部市民の憩いの場であるときわ公園の動物たちをモチーフにしたゲーム「ときわの動物タッチ」の伊世こころさん(新川小学校5年)、ネコに飛んでくるボールを避けさせるゲーム「Avoid」の畦森裕貴さん(上宇部小学校6年)が受賞。また優秀賞に、MikuMikuDanceやスマホゲームのキャラクターを使った動画「【MMD】ドラマツルギー」の村元美友さん(野田学園中学校2年)が入った。作品部門の運営を担当した宇部高専・久保田良輔教授は、「作品のクオリティ、プレゼンのレベルがここまで高いとは。正直に言って、想像や期待をはるかに上回った。競技部門も含めて、参加者同士の交流ができたことも大きな収穫」と、参加者と作品を称賛した。

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中野晃聖さんの作品「鏡音レンで踊【フルCGアニメーション】」

 ここで、運営のファインプレーにも触れておきたい。競技部門に参加した岩国高校の場合、一部の2年生は大会規定によって「U-16」への参加資格がない。いわゆるオーバーエイジだ。しかし今大会の場合、1年生も2年生も部活動で同じ時期にCHaserの学びをスタートし、腕を競ってきた仲間であることには変わりがない。これは部活動でCHaserの指導にあたる先輩(過去の大会参加者でオーバーエイジになった生徒)がいないという、第1回大会の宿命でもある。その意味で、今回、運営側がオープン参加として別に2年生の戦いの場を設けたのは、非常に光る配慮だった。また同じ競技部門で、モジュールがないためにプログラムが動かせない事態に陥った子どもがいた。その子はトーナメントからは外れたが、後刻、対戦を予定していた相手とのエキジビション・マッチを組んだのは、競技部門を担当していた宇部高専・江原史朗教授の素晴らしい判断だった。

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オープン参加の対戦は和気あいあい

コロナ禍を乗り越えて2年で大会開催

 今大会の競技部門で優勝した坂本空紀さん、作品部門の最優秀賞に輝いた中野晃聖さんは、来年1月にオンラインで開催するBCN ITジュニア賞表彰式に招待され、全国(都道府県大会)のU-16プロコンの優勝者とともに、BCN ITジュニア U-16賞を受賞する。ITジュニア育成交流協会の協賛企業からは、豪華な副賞が贈呈される予定だ。

 ITジュニア育成交流協会がU-16プロコンの紹介を目的に宇部高専を訪れたのは、2019年夏。宇部市の出身で、東京でIT企業の役員を務めていた方の紹介だった。その後、宇部高専の日髙良和副校長をはじめとする宇部高専の教員、そして今大会の後援に入った宇部市の関連部局は、地域貢献やIT人材育成の観点から、さまざまな組織の協力を得ながら開催を模索してきた。

 新型コロナウイルスの蔓延によってその歩みは中断を余儀なくされたが、宇部高専と地元企業による地域振興組織、宇部高専テックアンドビジネスコラボレイトの古田真一会長が実行委員長に就き、宇部高専の教員やコンピュータ部の学生など、大会運営スタッフの体制が整って、準備は本格的にスタートした。日高副校長は、「手探りで準備を始め、実行委員会をつくるまでが一番大変だったかもしれない。でも、そこからは学生・教員が活発に、積極的に動いてくれた。反省点はもちろんあるが、実際に開催してノウハウを得て、来年以降の開催への大きな自信になった」と、手応えを語ってくれた。

 初めての大会で最初は緊張していた参加者・スタッフが、時が進むにつれて目の前で展開するプログラムに引き込まれていく。それが手に取るようにわかる。終了後、参加した子どもたち、親御さんたちが笑顔で会場を後にする。見学した宇部市の担当者は、「いままで参加したデジタル系イベントのなかで、何よりも参加者が生き生きとしていて、一番盛り上がったイベントだったことは間違いない」と、興奮の面持ちだった。

 U-16プロコン山口大会は、山口県や宇部市、県・市の教育委員会、市商工会議所など、多くの後援を得ながら、参加者の奮闘・努力、スタッフの尽力があって、大成功のうちに船出した。宇部市の市制100周年に花を添えるだけでなく、次の100年にも資するこの航海は、来年、再来年と齢を重ねるにつれて、その成果を発現していくだろう。じっくりと見守りたい。

(文・写真:ITジュニア育成交流協会 市川正夫)