【寄稿】U-16プロコン、北海道は今年も釧路で開幕!

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北海道旭川工業高校 情報技術科教諭

下村幸広

 10月8日、「U-16プログラミングコンテスト釧路大会」が釧路フィッシャーマンズワーフMOOの釧路市男女平等参画センター「ふらっと」多目的スペースで開催された。

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釧路高専の学生とOB、実行委員会の大人たちが大会を支える

 旭川市で初めて開催されたU-16プロコンに遅れること2年、今年で5回目を迎えたこの大会は、釧路OSSコミュニティ(斉藤和芳代表)を中心に、釧路工業高等専門学校のプログラミング研究会とタッグを組んで開催してきた。参加者へのプログラミング指導は、釧路高専の学生が行っている。

 実行委員会は、6月に釧路市の教育委員会と中学校の教頭会に足を運んで開催の趣旨などを説明。7月の地域のコミュニティFMやタウン誌での告知によって十数人の参加申込みがあり、そのうち8~9月に釧路高専で開催した事前講習会に参加した子どもは10人だった。「参加者のなかに小学生が2人いて、プログラミングは厳しいかなと思ったけれど、学生たちの手厚い指導ですぐに理解してプログラムを書けるようなったのはうれしい誤算だった」(実行委員の佐藤貴行さん)。

 競技部門は、昨年同様、対戦型ゲームプラットフォーム「CHaser旭川版」で実施した。これは、事前に作成した自律型プログラムが定められた動きの回数のなかで交互に命令を発行し「相手より多くのアイテムを回収する」「出会った相手キャラクターの上にブロックを落とす」「相手が壁に突っ込むか場外に出て自滅する」のいずれかの方法で勝利を手にできる。プログラムによるキャラクターの動きの命令は4種類だけで、それらを移動方向である上下左右に使い分けて戦略を練る、いたってシンプルだが、奥が深いゲームだ。対戦が始まると、選手は何もすることができない。ただただ「プログラムが正しく動いてほしい」「バグが出ないでほしい」と祈るのみである。

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シンプルだが奥が深い対戦型のゲームで勝敗を競う

 8日の本戦の出場者は6人。予選は3人ずつに分かれて、A・Bの2ブロックの総当たり戦だ。残念ながらバグで負けてしまうプログラム、同じ場所を動き続けてしまうプログラムもあるが、正しく動いても、対戦相手やマップとの相性が勝敗を左右する。ときには歓声、ときには悲鳴が上がり、観客との一体感があって見ていて楽しい。

 Aブロックからは1位の秋里くる実さん(鶴居中学校1年)と2位の篠田颯人さん(北海道教育大学附属釧路中学校1年)が、Bブロックからは1位の岸凪沙さん(阿寒中学校2年)と2位の吉本雄斗さん(景雲中学校2年)が決勝トーナメントへ駒を進めた。Aブロックからは共に初出場の2人、Bブロックからは昨年の経験者2人が勝ち上がったことになる。

 決勝戦はトーナメント戦で、乱数をうまく組み入れたプログラムをつくった篠田さんが僅差で優勝した。2位は初出場の秋里さん、3位は昨年2位の岸さんだった。この3人は、11月5日に開催するU-16プログラミングコンテスト全道大会への出場権を得た。

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兄直伝のプログラムで優勝した篠田颯人さん

 優勝した篠田さんは、2年前のこの大会で優勝した篠田裕人さん(釧路工業高等専門学校2年)の弟だ。大会参加に向けて、兄からプログラミング指導を受けたことが勝因のようである。「全道大会に向けて、プログラムにさらに磨きをかける」と意気込む。

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準優勝の中学校1年生、秋里くる実さんは初出場

 大会終了後は、恒例のエキシビションマッチ。昨年までは、大会と同じルールで大人が本気でつくったプログラムを戦わせる通称「大人大会」を行っていたが、今年は昨年のU-16プロコン全道大会の覇者、下村恵子さん(釧路工業高等専門学校1年)と、一昨年の全道大会優勝者、加藤楓志さん(釧路工業高等専門学校2年)、そして篠田さんらによる試合を行い、大会とは違った盛り上がりをみせた。

 過去のU-16プロコン全道大会で釧路勢が強いのは、このエキシビジョンのおかげだと思っている。大人や先輩たちのプログラムには、戦略や戦術、多数のヒントが隠されているのだ。手塩にかけてつくり上げたプログラムを多くの観客の前で披露することは、恥ずかしさ半分、誇らしさと自信が半分といったところだろうか。そのプログラムに、大人たちが惜しみない賞賛の拍手を贈る。プログラムに行き詰まるたびに、高専の学生が助けてくれる。大人たちが褒め、昨年までは選手だった学生たちが、参加者の成長を助ける。この三者の一体感が、このコンテストの一番の魅力かもしれない。

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釧路大会実行委員長の斉藤和芳さん

 大会を通して、試合が始まるまでの不安な表情が和らぎ、試合ごとに笑顔に変わっていく子どもたちの姿は、実行委員会の大人や先輩たちがこの大会を続ける大きな原動力になっている。実行委員長の斉藤和芳さんは、「子どもたちの真剣な姿と成長に、何回泣かされたかわからない」と語る。

 昨年は選手として参加した加藤楓志さんは、今回はスタッフとして参加。大会終了後、「先輩方や大人の方たちのすごさを改めて感じた。大会の楽しさ、プログラミングの楽しさを多くの子どもたちに広めたい」と語っていた。U-16プロコンのすばらしさは、選手から指導者にシームレスにつながること。そしてスタッフになったときに、このような場所を提供してくれる大人たちの存在を知り、温かい気持ちとともに感謝の心が芽生えることにある。

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大会終了後、参加者を囲んでスタッフ一同が記念撮影

 今年の新たな試みとして、実行委員会が市内の企業・個人協賛を募ったところ、実行委員会の面々が予想だにしない額の協賛金が集まった。斉藤実行委員長は、「手伝ってくれる釧路高専の学生たちが交通費の心配をせず、自由に小中学生のプログラミング指導ができる仕組みを構築したい」と、早くも来年の活動を見据えて熱く話してくれた。